デス・ゾーン~栗城史多のエベレスト劇場~

デス・ゾーン~栗城史多のエベレスト劇場~ 河野啓著

 

会社の先輩に最近読んで面白かった本は何か?と尋ねたら、この本を挙げて、貸してくれた。勧めてもらわなかったらきっと読まなかったと思う。栗城史多を否定的な見方をしていたから。でも、先輩のプレゼンが上手で読んでみたいと思い、お言葉に甘え借りた。結果、読んでよかったと思った本。

 

第18回開高健ノンフィクション賞受賞作。著者は北海道放送のディレクターとして、栗城史多を取材し、番組を作り、この世に送り出したともいえる。この人はヤンキー先生こと義家弘介のことも取材し、番組にしている。本人は2人とも出会った当初と変遷していってしまったととらえている。そして、生み出したもの、としての責任もまた感じている。

 

この本を読んで思ったのは、栗城史多を作り出したのはこの社会じゃないのか?と。

電波少年で有名な日本テレビ土屋敏男氏も栗城史多ニートアルピニストとしてこの世に売り出したことを知った。多くの大人が寄ってたかって、彼を祭り上げた。もちろん、彼も喜んで自ら担がれたのだろうけど、20代のまだ世の中を知らない若者を軽薄な大人が祭り上げていった感が否めない。真摯な大人も近くにはいたようだけど。

 

そして、彼自身が利用したSNSで、結局彼自身がつぶされたのかなとも思った。

私も彼が好きではなかったが、それゆえに、生中継もみないし、SNSで調べたりもしなかった。でも、簡単にネットで本人とアクセスできて、本人にオブラートなしのど直球の批判を投げることができる今の時代で、誰かを押しつぶす危険性は私にもある。

そういうことを考えさせられる内容だった。

栗城史多マンセー、すごかった、みたいな本でも、批判するだけの本でもなく、彼は一体何を思っていたのかを真摯に問う本だった。栗城史多という存在を問うような。自身の反省も踏まえながら。そして社会を問うているとも感じた。