子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から

子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から ブレイディみかこ

 

保育士の視点からみた英国の政治の話。

「底辺」からみると、政治の変化がよくわかる。政治が福祉に力をいれているときは、「底辺」の保育所には活気があったし、問題は保育所の中のことだったように思う。(子どもが乱暴だとか、その親の抱えている問題とか)緊縮政治になると、「底辺」の保育所は最後にはつぶれてしまう。

ブレイディみかこって文章が上手だし、語り口も斬新で、イギリスの状況もわかるし、偏見やバイアスみたいなものも冷静に見て書いていて、なるほどなあと思う。

本は二部構成になっていて、一部は2015年3月~2016年10月までの緊縮託児所時代、二部は2008年9月~2010年10月までの底辺託児所時代と、話が戻る形になって書かれている。

問題の本質が時代によって変わることもわかる。

図書館で借りて読んだが、買って手元に置きたい本。

予言の島

予言の島 澤村伊智著

 

ぼぎわんが、来ると同じ著者で期待して購入。

ストーリーと別に仕掛けがあるんだろうなとは思ったけど、ネタバレまで気づかず。

でも、すごい!斬新!とかいう仕掛けではないかな…。

『葉桜の季節に君を想うということ』の仕掛けがすごすぎて、あの本以降はよほど納得のいく仕掛けでないとおおっとはならないかも。

思えば、ぼぎわんでも仕掛けてはいたので、得意なのかも。

ちょっと期待しすぎたかな?

でも読みやすいし、再読はしちゃうかも。

読み方変わるから。

 

ししりばの家

ししりばの家 澤村伊智著

 

ぼぎわんが来るシリーズ。琴子の子どものころの話や育った家庭がほんのり垣間見える。ぼぎわんほどの面白さはなかったかなー。幽霊?呪い?の力が強すぎて、にわかに信じられないというか、入り込めないというか…。

ただ、琴子視点というか、琴子からの見え方みたいのは、わかった気がする。

物語はすらすら読めていい。

期待が大きいからあれだけど、基本的に澤村伊智の本は面白いと思う。

予言の島も買っちゃったし。

 

『キリンの子』を読む

『キリンの子』を読む 鳥居歌集を読むつどい実行委員会編

 

雨宮処凛の女子の呪いで登場した、歌人鳥居の歌を読んでみたいと思って手にした本。

歌をいきなり読んでみてもわからないかもしれないと思ったから。

思っていた以上に字が大きくて、すぐ読めた(笑)

鳥居が歌集『キリンの子』を出版して、その記念とお祝いを兼ねて、本人も呼んで開かれたつどいの収録集。鳥居が日本語を学んだコラムを書いていた岡井隆からの寄せ書きや鳥居本人のインタビューも収録されている。

 

歌集を巡るこの本の中での評価みたいなものは、個人的にはあまり共感しないが、一過性で終わるのではなく、鳥居の才能を伸ばしてほしいという好意的な願いは感じられた。私は和歌を知らないが、ドキュメンタリー性が強かろうが、体験によるところが強かろうが別にいいじゃんと思った。なぜ批判されるのかわからん。鳥居がもし愛情に満ちた環境で育てられたとしたらこの才能は目覚めなかったかもしれないけど、それならそれでいいのでは?この本の中で共感できたのは、岡井隆の寄せ書き。なかでも、鳥居に批判的な意見があり、それは中条ふみ子や俵万智が登場したときにも起こった批判であり、同じジェンダーであると指摘している部分。

鳥居自身は、私は特殊な環境で育ったといわれるが、共感するともいわれる。特殊な環境で育った自分は少数派なはずだが、共感されるというのは不思議だ、と。鳥居は強い言葉や態度で自分への批判に立ち向かう人ではないんだと思う。こうやんわりした表現で自らへの批判に反論しているんじゃないかな。

鳥居は頑張ってほしいな。ドキュメンタリー性が強くても弱くてもいい。自分がいいと感じたものを詠めばいい。だからぜひ『キリンの子』に続く歌集を出してほしいな。

この本に登場した歌の中で私が好きなのは次の歌。

照らされていない青空ここに居る人たちはみな「夜」って呼ぶの

夜は照らされていない青空なのか!とその感性に感嘆した。

本では批判されてたけど(笑)

「女子」という呪い

「女子」という呪い 雨宮処凛著 集英社

 

女性の生きづらさを書いた本。

ああ、そうそうって共感しながら読んだ本。

本当に、雨宮処凛は、いまの社会をうまく言い当てる。

この本で紹介されていた、セーラー服歌人・鳥居は衝撃だった。

小学5年生で母親が自殺し、施設で生活するようになるが、虐待を受け、義務教育も受けさせてもらえなかった。そんな彼女が短歌と出会って世の中に訴えていくようになる。

こんなに悲しい人生を送っている人がこの日本にいることが驚きだった。

私が知らないだけで。鳥居も施設での虐待を訴えても信じてもらえなかったという。

教育を受けたいという思いをセーラー服であらわしているんだという。

 

雨宮処凛もセクハラから自分を守るためにゴスロリファッションをしていたんだそうだ。30代後半からゴスロリを着なくなってきたそうだが、セクハラを受けにくい年齢になってきたからということだろうか。

ただ、セクハラは年齢を重ねてもあるように思う。いい年して騒ぐなよとか、若い子にはすぐセクハラって言われちゃうからとか。

 

男女平等とかジェンダーとかいうと、怖い女、ものわかりの悪い女、面倒な女と思われそう(というか思われる)のが怖くて言い出せない自分というものもいる。実社会でどう自分がふるまうべきなのかは、悩ましいところ。

デス・ゾーン~栗城史多のエベレスト劇場~

デス・ゾーン~栗城史多のエベレスト劇場~ 河野啓著

 

会社の先輩に最近読んで面白かった本は何か?と尋ねたら、この本を挙げて、貸してくれた。勧めてもらわなかったらきっと読まなかったと思う。栗城史多を否定的な見方をしていたから。でも、先輩のプレゼンが上手で読んでみたいと思い、お言葉に甘え借りた。結果、読んでよかったと思った本。

 

第18回開高健ノンフィクション賞受賞作。著者は北海道放送のディレクターとして、栗城史多を取材し、番組を作り、この世に送り出したともいえる。この人はヤンキー先生こと義家弘介のことも取材し、番組にしている。本人は2人とも出会った当初と変遷していってしまったととらえている。そして、生み出したもの、としての責任もまた感じている。

 

この本を読んで思ったのは、栗城史多を作り出したのはこの社会じゃないのか?と。

電波少年で有名な日本テレビ土屋敏男氏も栗城史多ニートアルピニストとしてこの世に売り出したことを知った。多くの大人が寄ってたかって、彼を祭り上げた。もちろん、彼も喜んで自ら担がれたのだろうけど、20代のまだ世の中を知らない若者を軽薄な大人が祭り上げていった感が否めない。真摯な大人も近くにはいたようだけど。

 

そして、彼自身が利用したSNSで、結局彼自身がつぶされたのかなとも思った。

私も彼が好きではなかったが、それゆえに、生中継もみないし、SNSで調べたりもしなかった。でも、簡単にネットで本人とアクセスできて、本人にオブラートなしのど直球の批判を投げることができる今の時代で、誰かを押しつぶす危険性は私にもある。

そういうことを考えさせられる内容だった。

栗城史多マンセー、すごかった、みたいな本でも、批判するだけの本でもなく、彼は一体何を思っていたのかを真摯に問う本だった。栗城史多という存在を問うような。自身の反省も踏まえながら。そして社会を問うているとも感じた。

 

 

はるなつふゆと七福神

はるなつふゆと七福神 賽助著

 

ゲーム実況の三人称の一人、鉄塔さんが賽助名義で書いた初の小説。第1回「本のサナギ賞」優秀賞受賞作。

不景気で会社を首になってしまった女性が、近くの神社にお参りにいき、再就職を願ったら、福禄寿と寿老人が訪れてきてしまったところから物語が始まる。

ほのぼのとした内容で日常的な話が続くのかと思いきや、七福神大戦争の話にまでつながる。物語の中で、主人公が自分をダメな人間だと卑下したときに、その話を聞いた人が「内角の和」を出してきて励ますところや、七福神の争いに巻き込まれたくないと関わりを避けようとする主人公が、この国のことを自分には何もできないからと、行く末を眺めているだけでいいのか?と考え直すところなどは、響いた。

 

シリーズ化されてもいいように思うが、内容も話もよく練られているので、そう簡単にシリーズ化できないのかな?

 

ゲーム実況での鉄塔さんが書いた小説ってどんなもんかなと思って読んでみたが、失礼な言い方だが、予想以上に良かった。読みやすいし。(←個人的にかなり重要)